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燕 第十三話:波紋


第五節―――――

「ちっ、」

まだコウの身体は神無との闘いより痛んでいた。おまけに今の一撃だけでわかる、卯月の槍捌きは並みではない。殺意なく、鍛錬された動きに無駄な動きなどなかった。攻めず受けとして待つ彼に無闇に飛び込めば十中八九悲惨な結果となろう。
六尺はあるあの槍をまともに受け止めても大変なことになるだろう。と、その時卯月が攻めに出た。コウは構えを取るが、突然コウの前に朱雀が飛び出してきた。続いて燕もだ。

「お前達・・・!」

コウは逃げろと言いたかったが、言うより速く卯月の槍は唸った。三人は下がりながら、前で燕と朱雀が巧みに卯月の槍を一振り、二振りと受け流した。

「はあっ!」

飽くまで小さい卯月の気合は刃の音に掻き消されそうなくらいだが、覇気があった。槍は横へ切り払われると、上から下へと切り払い戻され、次は大きく踏み込むと共にその十字の刃を回しながら切り上げながら横へと払う。

「あっ、く!」

受け止めようとした燕の忍び刀が弾き飛ばされる。咄嗟に朱雀が跳んで燕を掴み、卯月の追撃を逃れる。が、狭い通路。朱雀はすぐ壁に突き当たり、燕を壁に振り返った。追撃である縦の振り下ろしから卯月は予定していたかの如くそのまま横へと十字の横槍を二人へと払った。朱雀は間一髪腕の刃で受け止める。が、その力に圧倒され弾き跳ばされた。
十字槍の刃が二人に迫った、その時だった。急に卯月の手が止まったのだった。急に卯月が咳き込んだ。コウがその間に走りこむ。咳を止め、振り来る卯月の槍をコウは間一髪受け止め、回して軽く弾き上げる。その間に朱雀が一瞬にして卯月へと接近し、その首目掛けて突いた。すると急に卯月は姿勢を崩し、上半身を前へと倒して朱雀の一撃をかわしたのだった。卯月は苦しそうに咳き込んでいる。

「その腰の布にある家紋、それに先程十勇士と言ったな・・・。」

コウがつぶやく。卯月の腰から垂れる布には丸印が三つずつ二列になって並んでいる。

「お前、十年前に滅んだ真田軍の残党か。」

「くっ・・・」

卯月の口と手は赤く染まっていた。

「持病が・・・そろそろ限界が近くなってきたようですね。」

卯月がつぶやくとコウは睨んで言った。

「持病と残り少ない余命か・・・それに動揺して、最後くらい闘って死のうとでも思ったのか?」

コウの言葉に卯月は答えようとし、また咳き込んだ。地面に血が垂れる。と、その隙に朱雀が背後から突きに掛かる。と同時に卯月はまた激しく咳き込み、地面につっぷした。丁度運良く朱雀の一撃をまたかわした彼は、体制を戻すと同時に一瞬にして槍を振り上げた。咄嗟の一撃を朱雀は辛うじて受けることに成功した。だが受けきれず弾かれる。
今度はコウと燕へと卯月は槍を振るう。朱雀が助けようと飛び出すが卯月に隙はなかった。近づこうとすればそれをいとも容易く阻止される。しかも無駄に動かず仕掛けてもこないのだ。だが、速さを活かし、朱雀は卯月へと跳び込んだ。

「はぁっ・・・」

卯月はそれを石突で打ち飛ばす。と、ともに槍を圧倒的な速さでぶん回す。信じられない速度で朱雀の額へと追い討ちが炸裂した。運良く額の位置に鉄板を装備していたがその痛みは頭を砕かれるに相応するようなものだった。

「朱雀!くっ・・・!」

あまりもの卯月の強さに焦りを感じ、噛み締めるコウ。そこにいつの間にか卯月の一撃が死角から襲い掛かってきていた。

「コウさん!」

燕の叫びに、槍が当たる直前で棒を右から左へと回して一撃を受け止める。が、やはり受け切れられず壁に頭を打ってしまう。

「コウさん―!」

燕の叫びも束の間、今度は槍が燕へと襲い掛かった。燕は持ち前の移動速度を用い、一つの体制から次の動きへと移る速さと身軽さで卯月の機敏で無駄なき槍捌きを一振り、二振りと避けていく。だが法則のない卯月の動きに対し燕は次の攻撃に備え、避けるので精一杯だった。次第に汗がにじみ出てくる。すると突然三振り目を燕がかわすと、燕の着地に合わせ卯月は異常な速度で連続突きを開始した。

「はぁ―――!」

燕は左右後ろへと軽く跳びながら紙一重で槍を避けるが、その顔には焦りと緊張が覗えた。並みの戦闘では現れぬ、生と死の狭間の焦りと緊張だった。と、その時、燕の脇腹を一撃がかすめた。水無月との激戦の痛みが燕を襲う。

「くぅぅあっ!!」

そこへ情けなどなく、卯月の槍は真上から振り下ろされた

「燕――!」

叫びとともに燕の目の前に何かが飛んで来る。無意識に燕はそれを掴み、卯月の一撃を受け止めた。金属音が闇夜に鳴り響く。朱雀はその音を頼りに、額を抑えつつも見上げた。

「っ!燕―――――――――!!」

燕が受けている武器が卯月の槍によって粉々に粉砕されたのだ。

「(突かれる!!)」

燕は目をつむった。

「ごほっ、ごほっ!!!」

急に咳が聞こえた。と同時に槍が一瞬静止した。だが燕は瞳を開けたその時だった。

「ぐっ・・・!くっ!私は・・・死など恐れてなどいません、そんなことに動揺し、自分自身を見失うこと程・・・私は弱くはない――――!!」

勢い強い一突きが迫った。

セイは冬月亭に潜んで盗んだ資料を胸に、闇夜を駆けていた。

「(俺だけ遅れちまったが・・・代わりに良い情報が手に入った。ま、そういうことだから・・・朱雀が一緒だからな、大丈夫だろう。燕ちゃん、それに皆、無事でいてくれよな。)」

そう願いながらセイは駆けた。

「(にしても、燕ちゃん、あの平手打ちは良かったねぇ。まだまだ感情が残ってる・・・。)」

そして一人いつもの笑いを作る。

「んにしても、燕ちゃんの胸触り〜!早くコウの奴に話してやりたいな〜♪あいつ真面目だから、どんな顔するかな〜ははは、)」

笑いながらとたんに足を止めた。コウが潜んでいる隠れ家が半壊している。

「!」

セイは目を細くし、表情を固めた。そして跳び、その先の通りで足を止めたのだった。というより、正確には足が勝手に止まったのだった。
闇夜に血が飛び散る。地面に倒れこんでいた朱雀が額から宙へと手を伸ばし、そして目の前の光景にただ愕然とし、たしかな動揺を表情に、屋根の上から情況を観たセイと同時に叫んだ。

「コウ――――――――――――――――――――――!!」

「うっ、」

燕は地面に倒され、目を開けた。手には粉々にされた、コウの棒があった。

「はっ!」

見上げると目の前に、コウが立っていた。彼の腹に、卯月の槍が刺さっている。

「コウさん―――――――――!!」

燕は叫んだ。

「く、うっ・・・!」

コウは槍を抑え付け、微動だにしない。冷静な顔色はいつものままだ。

「燕、謝る・・・。」

意外な言葉に燕は目を大きく見開いた。

「私は、お前に・・・情を捨てろと、それでは強い相手は倒せないと言った!・・・すまない・・・、私がお前に一番の動揺を、与えてしまっ・・・」

言いかけ、コウは突然口から大量の血を吐いて倒れた。

「コウさん――――!!」

燕は叫んで倒れたコウの身体を受け止めた。

「コウ―――――――――――――!!!」

セイは怒りの表情で屋根から飛び降りた。

「貴様ァー――――――――――――!!」

「くっ・・・!」

朱雀は唇を噛み、歯を食い縛って必死に起き上がろうとした。抑え難い怒りが彼の支配していた。

「・・・クソォ・・・!!」

辛うじて片手を地面に立て、上体を起こしたそのときだった。

「っ・・・!!??」

彼の視界に、いつの間にか壁に背もたれして見物している文月が映ったのだった。

「セイ・・・止せ・・・・・・!」

「コウさん・・・」

燕の涙がコウの額を打つ。

「私のせい・・・、私が・・・、」

燕はうつむいた。急に水無月の涙する顔やユイのことまでが燕の脳裏に浮かびあがり、心が激しく揺さぶられた。

「私が、傷ついたせいで・・・見つかって・・・私のために・・・」

燕は泣いた。声を上げて泣いた。
その泣き声は、セイと朱雀と卯月と文月、真夜中の四人の緊張の中に埋もれていったのだった。

燕 第十三話:波紋
―完―



燕 第十四話:飾り

―予告−
『愛』も無く生まれてきた娘に、“忍”という鎖に縛られ何も為せなかった母。
女はそれまで“忍”として生き、“忍”として刃を握ってきた。
“忍”としてではなく“人”として
“保護者”としてではなく“母”として
女は娘のために、刃を握り直した。

「それが私の、今を生きる理由。・・・“人”として、生きるための目的だ!」



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