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燕 第二話:決意




第五節―――――



修行が始まって何年経つだろうか、燕とユイは二人とももう当初の様な小さい子ではない。歳は十五になった。ガクと揃って寺での修行を終え、イスカやアンが住まう屋敷の方へと移った。移ったところで燕とユイは早速呼ばれ、イスカの間へと参った。二人に、初めての任務が与えられた。



任務は簡単なものだった。闇商売をする小さな小悪党数名の排除であり、ユイとともに潜んでそれぞれ担当の箇所で暗殺すればいい。一人目は見張りの者で、誰もいない廊下の奥へと歩み寄ってきたところを燕は跳び出して肺に忍び刀を突き刺した。肺を刺され断末魔さえ上げられぬまま、忍び刀の刃を回してえぐられ、横に肺をつなぐ血管ごと斬り裂かれ男は倒れた。指した傷口通りに刃を抜いて返り血を少なくする。次に背伸びをしている商人の一人に近づき口を押さえてのどを短刀で斬る。間違えて斬れば返り血が激しいが燕は冷静に正確に行い間違えなかった。丁度その商人を殺し地面に下ろした時にもう一人の見張りが通りかかった。燕と横たわる仏を見て一時唖然とし叫ぼうとしたので丁度開いた口にクナイを投げ当てる。そしてその見張りがまだ意識があるうちに急接近して短刀をその心臓へ突き刺す。

最後に商人と小悪党がいる部屋の前へと歩み寄る。丁度障子の先に二人面して傍に座っているため、燕は殺した見張りの槍を奪い、障子をかすかに開け、その隙間から槍を片手で投げ入れた。誰も慌てる様子がないのを確認すると、燕はそっと障子を開け、中へと入った。商人と小悪党は面して座っていた。槍が商人の心臓を貫き、そのまま小悪党の胸を貫通している。小悪党の心臓は偶然にも右だったらしく、二人を貫通した槍の先には真っ赤で生の心臓が二つ突き刺さっている。燕は片手に忍び刀を、片手で口を抑えた。さすがに鳥肌が立つ。気が狂いそうだった。それに貫通して飛び出した心臓と槍は嫌な物を思い出させる。まさに気が狂いそうだった。

「黒村殿、例の品を・・・」

そう声がして反対側の障子が開いた。入ってきた若い男は眼下に突き出されている心臓を見て両手で持った品を落としてしりもちをついた。品は饅頭の乗った置物だったが良く見るとその中に隠してあったのか小判があたりに散らばっていた。燕は静かに近づき、忍び刀を逆手に持ち直して構えた。

「たたた・・・助けてくれ!」

男は叫んだ。

「お・・・俺は関係ない!おお、俺は何も悪くないんだ!!頼む、頼む!!先日、雇われた、ば、ば、ばかりなんだ!こ、こ、こんなことになるだなんて・・・!!こ、殺さないでくれーー!!!」

男は両腕で顔を隠すようにして泣き叫んだ。

また嫌な記憶が頭に戻ってくる。それに吐き気もするし気が狂いそうだった。

そしてそれが表情となって燕の顔に表れた。その顔を見逃さなかったのか、男は急に跳び出し燕の体を押し倒した。

まさに一瞬の隙を突かれた燕は対処に遅れ、しかも運悪く真後ろに指してあった槍で横腹をかすかに擦ってしまった。倒れた勢いと横腹を斬り裂かれた痛みで燕は忍び刀を手放してしまった。男の両手が燕の首を掴み、もの凄く強い力で締め付ける。

「このガキ!!」

「あっ、ぐっぅ!」

声が出せなかった。おまけに吐き気もして気が遠くなってきた。目前の男の顔は笑っていた。笑っていたがそれはつかの間のことだった。男の表情は急に悪化し、次の瞬間血が燕の顔に吐き出された。男の体はその後右へと蹴り落とされ、燕の前にはこの初の任務で燕とユイの世話をすることになっているコウの姿があった。燕は何とか傷の痛みを堪え、体を起こすと、その場に嘔吐した。

「何の真似だ?」

コウが冷たくつぶやいた。膝を突いてコウは燕の顔を覗き込む。

「一瞬ためらっただろ。」

コウは厳しく怒鳴るように言った。

「同情など、余裕のある者がすることだ。ためらいなど小心者がすることだ。情けなど、」

コウは言った。

「忍のすることではない!俺達忍には情など余計なものだ。ましてや任務最中にためらいや油断、気の緩みなどあってはいけないんだ。それが命取りなんだ。強敵相手では、こうはいかんぞ・・・。」

怒鳴られ、そう断言され、燕は涙してそのとき決意した。朱雀と再会した晩、初めて命を奪った時、頭に流れ込んでくる記憶と悲しみとともにあった悩み。

『人間味という物を捨てる』ということを。それ以外、彼女にはどうすることもできなかった。



過去と哀しみの重圧から逃れるため・・・。

それは歳月を経ていつ知れず形を変える。

強敵を恐れぬため、殺すため・・・。



燕 第二話 ―完―






第三話:好戦



―予告―



男は斬ることを望んだ。

男は斬るために戦いを好んだ。

男は斬るために戦いを望んでいた。

彼女は彼の内のそんな気持ちを見取った。

彼女は彼の内を友の内にそれを見た。



「戦い、望んでるんでしょ・・・。たぶんそれは・・・」





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