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燕 第三話:好戦




第一節―――――



−地方、関所前にて−

 「にしても関所の仕事は楽だが暇だねぇ〜。」

関所の前の役人が一人つぶやいた。関所前で取り締まる二人組みの一人だ。

「殿様の、なんだっけな?あれが採用されたりしたらこの仕事、一月だかんな。」

 「月番だ。幕府の定めくらい覚えておけよな。」

もう一人が答えた。背の高めで、腕と脚は見れば鍛えているとわかるくらいしっかりしていた。実際、この男、剣術になら自信はある。

「だが実際、色々な人を観ることができる。芸人、商人、都を求め日々色々な人が通る。都はさぞ賑やかであろうな。」

 「へ、でも言われてみればな〜。あんなに多彩な者がおるということは、つくづく自分が何してんのかーって思わされるわ。にしても・・・ここ数日は逆が多かねぇか?」

すると背の高い方はその話に一目置いた。

「武器商人が武器を背負って江戸から出てくる、歌舞伎者は通るわ、浪人も通るわ。」

 「たしかに。だが・・・気のせいだろ。それほど多いわけではあるまいし。お、仕事だ、仕事!」

背の高い男は前に駆け寄り、江戸へと向かう商人達の下へ歩み寄った。料金を受け取り、

「よし、通ってよいぞ。」

と言って門を開ける。

「ま、お前の言う通りかもな。」

商人達が関所を通ってまもなくだった。それは来た。何か得体の知れぬ気配が彼らの背に圧し掛かったのだ。鳥肌が立ち、身の毛もよだつ。体が振るえ、一瞬で冷静さが失われていく・・・それを肌で感じることができた。

 次の瞬間、鈍い音がした。同時に検問番の二人が振り向くと血が噴き出していた。

かすかにに幽霊のような雰囲気を漂わせる男が立っている。

倒れているのは商人達の連れの用心棒だ。

斬った奴の方は真っ白に大きく見開かれ、快楽に震える顔をし、裂けたような口で笑みを浮かべ、あまりの嬉しさに体が震えている。

一見不健康そうな顔色をして骨の跡が見えるが、それは常人離れした太い骨であり、その周りには無駄のない筋肉をまとっている。背も高い。だがその場にいた誰もがそんなことには気付かなかった。

商人達は腰を抜かして立ち上がれないでいる。男は二人組の前までゆっくりと血の滴り落ちる刀を手にゆっくりと歩いてきた。

 「き、貴様ァ!!」

背の高い方が刀の柄に手をやった。

 「こ、この場を何処と心得る!?」

気が完全に動転したもう一人が叫ぶ。男が近づくにつれ、一歩ずつ下がりそして言う

「こ、この場は関所だぞぉ!か、金!」

 すると男は立ち止まり、不機嫌な顔をしてから数歩おろおろと歩きつぶやいた。

「せきしょ、セキショ、関所・・・。ハッハァー!」

閃きの声を上げるが、それだけで威圧感を覚える二人。

「ああ、金払って通る奴ねぇ〜。」

そう言うと今しがた斬った用心棒の腰の袋を取り、中身の銭を数えて袋を投げた。釣りは自分の懐にちゃっかりしまっている。

背の高い方はそれを受け取ると、血のついた袋を見てそれを地面にたたきつけた。

「ふっざけるなー!!」

刀を抜き、斬りかかった。男の表情が無常に嬉しそうに顔がやつれて激変し、同時に先ほどその場を襲った“何か”が波動の様に襲い掛かった。

その威圧感に斬りかかった男は振り上げた刀を緩めてしまった。そこへ男の太刀が振り下ろされる。腰を沈めてなんとかその一太刀を受け止める。がその刀をへし折って男の太刀は目の前の男の頭へ沈み込め、血しぶきを垂直にあげる。

 「ば、ばば、バケモノォー!!!」

もう一人の関所取締役の門番は半身を翻して腰を抜かしながら駆け始める。その時ふと、化け物と呼ばれたその男は思い出す。刀を投げつけそれは一直線に逃げ行く男の心臓を貫いた。

そう、今度の祭りは足がつくと面倒らしい。男はゆったりと首を回して腰を抜かした商人を見すえた。それに・・・何より殺すのが楽しい。男は己の本能に従って刀を再度振るった。






第二節――――――――



―「巣」―

 「仕事だ。」

イスカは冷たく言い放った。

「場所は武藤山から一番近い下町、刻は戌、目標が現れるまで南方林付近町中で待機。目標が現れ次第、始末しろ。」

 「承知!」

低い冷めた声、透き通った冷静な声、高めの男の声が同時に返事をした。

 「リュウ、朱雀が留守ゆえ、この度は三人で果たせ。」

イスカのその一言にふと下げた頭が反応して動く燕。

 「(朱雀・・・。)」

己につぶやいた。



―下町・刻深夜―

 目標は肌が白く薄汚れたぼろぼろの胴衣を着た男だと言う。背は五尺8寸ほどという。出雲の山中では名の通った人斬りだという。その名は、斬。

 活動範囲が山中と限られていたのが急に北上し、江戸を回って関所で人を斬ったことから足がついた。何が目的で北上したにせよ、近くを通るので仕留めるとのこと。人斬りの中では放って置けば何が起こるわからない性質とイスカが判断したためだ。

 担当は燕、ユイ、ガクの三人。三人とも別々の持ち場に。ユイが屋根の上から飛び道具で足止めし、燕とガクが挟む形で狭い街角で殺す陣形。深い森に通じた町の裏とも言えるこの場所は、日中でも人通りはほとんどなく、無人の家が多い。

 冷たい風が吹く。風とともに犬並みの嗅覚を持つ忍達にはその血の匂いを嗅ぎ取ることができた。斬という男が森の中から白いもやの様に浮かび上がり、そして白い人影となって町中へ足を踏み入れた。

 男はまずガクの忍んでいる場所を通過、そしてユイのいる家の前を通過、そしてユイが攻撃を仕掛け、同時に燕が飛び出し奇襲を仕掛ける地点の手前に到達する直前で足を止めた。それに対して燕とユイ、ガクの視線が集中する。

 気配を消し、闇と同化するのは忍の基本中の基本、三人ともそれは成していた。だが目標である斬は、あまりにも完璧に闇に同化し、自分に集中している「消された気配」を第六感で感じとった。そして逆にその存在にこれまでにない興味を持った。

自分が生まれ育ち、まるで我が家と言わんばかりに知り尽くした山を下りてわざわざ長い道程を旅した甲斐があった。斬はその存在を意識し、体のうちから一瞬でこみ上げてきた気持ちを放出した。『斬りたい』斬はその存在と是非斬り合ってみたかったのだ。

その気配は一瞬にして三人を襲った。殺気だった。ただ、信じられないほど強い殺気なのか、波動のようにさえ感じられる。鳥肌が立つのを三人とも必死に抑えたが、信じられないこの波動をふいうちのごとく喰らい、正直三人とも一瞬だけ混乱した。

その一瞬、その一刹那三人の集中が乱れて気配を闇から現したのを斬は逃さなかった。斬は即座に行動に移った。身を翻して突進して民家の屋根へと飛び移り、さらに二階の屋根へと飛び移る。そのまま建物の反対側まで止まることなく全力で移動した――――獲物の元へ。

「ユイ!」

ガクより近くに待機していた燕も、その身を闇の中から現し道を駆けたガクも一瞬反応が遅れたものの、即行動へ移る。

ユイは不安だった。いくら予想していなかったこととは言え、その強烈な殺気に動揺して先ほど見せてしまった気配は大きい。正直、恐怖してしまった。一旦建物の影に身を潜め、気配は消し直した。だが、大丈夫だろうか。――――彼女の不安は的中した。

足音が同じ建物の反対側から聞こえ、真上から斬が刀を一振り抜いて降ってきた。さっと素早く背後に飛び、斬の振り下ろしをかわし、そのまま身を軽く宙で翻して隣の建物へバク転しながら後進していく。バク転中、斬は全力疾走して刀を宙に振り続けていたのが見えた。その形相は常人では鬼にも見えるだろう。

ユイはとっさに冷静になり、次の瞬間斬の刃が届く位置で振り下ろされたとき鉄扇を居抜き、斬の刃を弾いた。だが弾かれた刃は勢いがあったにも関わらずすぐ再度振り下ろされる。ユイも着地と同時に攻撃を放ったため斬の一瞬の隙を突くことができず、後転し、さらに素早く二歩跳ぶ。

逆手で居抜いた左手の鉄扇を持ち直し半身で前に、右腕にも鉄扇を構えた。斬も振り下ろしから即攻撃続行。ユイも鉄扇で得意とする受けをするが、斬の太刀は異常な速さで一歩もひかず全くためらいもない攻めで突進し続けてきたため、また足場が非常に狭く不安定なこともあって背後へと跳ぶのが精一杯だ。反撃の瞬間を造れない。

「ヒャッヒャッヒャッヒャァァァー!!ハッハー!!」

斬は歓喜の叫び声を上げた。

斬が前方へと勢いをつけて跳んだ。ユイは丁度跳躍した状態で抵抗できず、一瞬にして距離が縮まった。鉄扇でうまく攻撃を弾き返せる距離ではない。斬の大きな左から右へのなぎ払いがユイの横顔を襲う。ユイは軽く身を捻り、同時に斬の体を足で蹴り、その勢いで身を翻した。なぎ払いを右腕で受けるがそのせいで大きくのぞける。屋根に体を打ち付けつつも身を転がし、斬の次の振り下ろしを両腕で受ける。

「(ふ、不覚!)」

ユイは己に言い、かがんだ状態で斬の振り下ろしを耐えている。この状態は確実に不利かつ長くは持たない。とそこへ先ほどの波動が上乗せし、襲いかかる。気を緩めずにいたが刃が低く沈み込んでくる。

「(片手なのに・・・この異常な力!・・・はっ!)」

ユイは素早く意識を斬の余った手へと移す。

「!!」案の定斬は背中の刀をもう一振り抜き無防備なユイの右胴へなぎ払ってきた。「!」



第三話 ―続―




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