燕 第四話:少女




第五節―――――



その頃燕は・・・。少女につられ全く人通りのない、少し広めの広場に出た。四方には小屋と壁。

「ちょっと、どうしたの?」

駆けていく少女に声を掛ける燕だが、すぐにその質問を撤回した。四方の小屋から人相の悪い男達が出てくる。来た道からも。少女は物陰に隠れてしまった。

最も、いくらなんでも燕の相手にはならなかった。短刀を抜き、一人一人急所に刺して殺してゆく。数が多く、少しためらったが燕の行動の一つ一つに隙などほとんどなかった。忍はどんな場所でどんな情況でも、例え何人相手であっても倫理応変に対応できる。同時に一切の無駄な動きをせず、一切余計な攻撃を加えずに相手を一瞬で仕留めるよう訓練されている。着物を着ていようが基礎ができていれば問題はなかった。

全員殺し、燕は物陰へと急いだ。物陰は行き止まりで、誰の影も見当たらなかった。一歩一歩と少しずつ近づいていく。

突然吹き矢が風を切って飛んできた。燕は紙一重で避けることに成功した。矢は首の後ろを飛んでいき、代わりに燕のクナイが反対側へ風を切った。

「きゃぁ!」

少女の悲鳴とともに転がる音が聞こえた。燕は軽く跳躍し、小屋の向かい側の通りへと下りた。そこもやはり行き止まりで燕は肩にクナイが刺さった少女を見つけた。短刀を握りなおし、燕は近づいた。両手で短刀を振り上げ、静止する。少女は最後に一言尋ねた。

「かおりは、捕まえた金魚を、逃がしますか?」

燕の表情が、久しぶりに崩れた。歯軋りと震える手。燕はふいに昨夜のセイと交わした最後の会話を思い出す。そして黒い奴が自分の方へと歩み寄ってくる過去が脳裏に蘇る。そして、自分が自分に、昨夜言い聞かせた一言を思い出す。



「燕!」

ユイとセイが死体の後を見て角まで駆けつけてきた。

「あ、大丈・・・燕・・・」

ユイは言葉に困った。燕と、血と、短刀と、一人の血まみれの少女がいた。これまでになく、表情のない、心のない様な燕をユイは、見た。ただ、ただ何かいつもと違う、興ざめた燕がそこにいた。

「私なら、」

燕はつぶやいた。ユイにはかすかに聞き取れた。

「私なら・・・殺せた。」



燕 第四話 ―完―






第五話:私情



―予告―



少女の心は揺れ動いていた

非情な友、非常な仲間、過酷な命令

非情ならざることが強さなのか

動じぬ心が、動かされぬ心が強さなのか

では情を持ち、恐れ持つ自身は弱者なのだろうか



「貴方、忍でしょ?強く生きたいから、強くなりたいから忍になったんじゃないの?」




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