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燕 第九話:想い


第三節―――――

―「巣」・イスカの間―

「心配か」

イスカがつぶやいた。背を向け立っていた百舌が振り返る。

「それは質問か、それとも意見か」

と百舌。

「両方だ。それに心配をするのはお前の役目だ。」

迷う様な百舌の口調に対しイスカは厳しい口調で返事を返した。

「俺は飽くまで現実的に状況判断と指示を出すまで、俺が心配するのは組織のことだ。私情を入れ、あいつら一人一人の心配や調整をするのはお前がやることだ。お前にしっかりしてもらわねば組織に影響が及ぶ。この様な例は前代未聞だからな。特に、リュウがしっかりと目撃した、奴が最大の問題だ。」

「文月か・・・。」

百舌は障子を開け、外を見た今朝方降り始めた雪が積もっていた。そして雪はまだ降り続いている。

「朱雀を呼び戻そう。今はできるだけ多くの戦力を待機させておきたい。」

「文月って・・・」

声の方へと百舌が振り返ると外の廊下にアンが立っていた。長い黒髪に触れながら鋭い目つきをしていた。

「アイツでしょ?」

気まずい沈黙が流れた。

「あんなのに・・・勝てないわよ、あの子達。」


―冬月亭・地下―
足音が聞こえた。また水無月が来たのだろうか、それともまた男どもか。ユイは目を開いて扉の方へ目をやった。服装は既に浴衣に着替えている。手足は縛ってあるが壁に張り付けではない。壁に背をつけ、座り込んでいる。水無月の問いに対する自分の答えを思い出し、ユイは覚悟を決める。機会があれば・・・と。だが扉を開けて入ってきた者の風貌にユイは一瞬驚いた。つい百舌と姿を写し見てしまった。傘を被った男、文月はゆっくりとユイの元へと歩みよって片膝をついた。百舌を写し見たせいだろうか、ユイはその男に対し反抗しようとは思わなかった。否、抵抗してはいけない、という冷たい感覚が全身を流れた。すると男は口を開いた。

「フン、お前は新しい者の様だな。」

文月は尋ねた。

「ある男を捜していてな。奴はまだ健在か、奴、・・・」

「!!何故・・・貴方は・・・一体、だ、誰?」

ユイは文月の口から出てきた名前に驚き震えた。

「フン。」

文月は鼻で笑った。

「あの程度でくたばる男ではないか、やはりな。嬉しいぞ。」

文月はそういうと刀を静かに抜いた。その刀は・・・忍び刀だった。文月はそれをゆっくり振り上げると、目にも止まらぬ速さで振り下ろした。気づけばユイの足を縛っていた縄は既に斬れた後だった。

「!?」

ユイは驚き、文月を見上げた。

「貴様ごとき小娘の一人、問題ではない。代わりに、もし、貴様がここから生き延びて奴の下へたどり着けた場合、伝えろ。」




第四節―――――

―光邑生町―
燕は一人、冬月亭の塀を飛び越えた。前リュウを助けに忍び込んだ森林地帯だ。果たしてこの様な勝手な真似が許されるのだろうか、そう思いつつ、森を眺める。すると燕のすぐ左隣に何者かが飛び乗った。とっさに忍び刀を右腕で抜き、左腕で腰の短刀を同時に抜いて交差するように構える。隣の相手も驚いて背の忍び刀へと手を伸ばした。燕は相手を確認すると大きくため息をついた、呼吸を整えるように。そして武器をしまった。

「らしくないな・・・心配か、ユイのこと」

ガクは森の方へと目を向けながら言った。

「・・・」

燕はうつむいた。滅多に見られない、燕のもの凄く不安な表情。

「嫌な胸騒ぎが・・・」

燕はつぶやいた。これまでに二度経験した胸騒ぎ。

「ちっ。」

ガクが舌打ちした。

「リュウが先に潜入した。どうやらユイが捕らえられているとしたらいるだろう場所が掴めたらしい・・・。」

ガクは間をおいてから続けた。

「俺には待機および周囲探索命令が出ているが・・・正直待っていられる気がしない!」

燕がはっと顔を上げると一見冷静そうなガクは歯を噛み締めていた。

「お前も・・・そうだろ?」

燕は塀を飛び降り、森の中へと足を踏み入れた。そしてガクへと振り返ってうなずいてみせた。

「行こう・・・」


冬月亭内では・・・妙に騒がしい。リュウはユイが囚われていた地下室への階段の傍の木に隠れ、様子を覗っていた。妙にどたばたしている。

「(まさか・・・)」

そう己につぶやいたや否、リュウは振り向いて傍の大木を斬り裂いた。大木が音を立てて、倒れると、そこには文月が立っていた。

「貴様・・・」

「そのまさかだ。」

心中を読まれたリュウは表情が変わる。

「貴様の心中など、顔を見れば手に取るようにわかる。そう警戒する必要もない。俺の相手は貴様ではないからな。」

文月は一歩横へと歩むと続けた。

「あの娘、今森の中を逃げているところだ。」

「!!」

「フン、貴様が来ることくらい想定していた。貴様を敵に回せばあの男の同士は幾人でかかろうとも被害は大きなものとなるだろう。だからあえて逃がしたのだ。あの娘、この先に、とっておきがいることも知らずに・・・」

文月は笑っていた。リュウは跳んで駆けようとした。その時だった。気配を感じ振り向くと、満月に写る人影があった。屋敷の屋根に乗るその影は、風変わりな民族衣装を着て、顔をフードで隠していた。光るような美しく大きな瞳が特徴的だった。だがフードの中で輝いていたのはそれだけではなかった。

「なっ・・・!」

リュウは目を凝らして見た。ふいに風が吹き、フードがめくれるとその中から幼い美少女の顔が現れた。リュウは大きく目を見開いた。その目は釘付けになった、その、少女の髪に。少女の顔立ちこそ日本人であるものの、美形で、頬にリュウと同じ刺青のあり、そして何より同じ金髪だった。少女のその大きな凛々しい目は、リュウ同様に興味深そうに見下ろしていた。文月はどうやらその時初めて少女の存在に気付いたのか、見上げた。

「リュウと同じ・・・すこぶる面白くなってきたな。」

文月はつぶやいた。

一方。

「はぁ・・・はぁ・・・ぐっ!」

ユイは森林の中、雪の中、浴衣だけで、裸足で歩いていた。身体全身が冷え切って凍えている。脚は動いているのが不思議なくらい白くなり、浴衣の隙間から吹き入る風が身体中の傷跡をずきずきと蝕んで今にでも倒れそうだ。左肩が脱臼し使えない。右腕で体を支えながらひたすら、前へ前へと進んだ。水無月に返した返事を思い出す。あの時ユイは、自分のことでもあると思い、伝わらないと認めてしまうことがどうしてもできなかった。もちろんその前の水無月の話のこともあった。

「リュウ・・・さん!」

ユイは想いを胸に、体中の痛みを堪え、ひたすら前へと歩を進めた。

「燕・・・!」

「どこだ、逃げられると思ってんのか!?」

背後から追っ手の声が聞こえた。もう気付かれたらしい。ユイは既に脱出のため、やむを得ず見張りの者を一人殺していた。

「(嫌・・・!諦めない・・・!)」


第九話 ―続―


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