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燕 第十二話:詩織


第五節―――――

―冬月亭―
何故かあの後、後をついて来ては何かと関わろうとする皐月の相手をし、いつの間にか日は暮れて月が闇夜に顔を出していた。師走の言いつけ通り、一部の者達は第二の拠点へと移動を開始した。珍しくはしゃぎ過ぎたのか、皐月はぐっすり眠りについている。それ以前に師走が勝手に水無月のために開いた夜の宴会で普通の酒と雪月花という酒を間違って飲んだのが原因かもしれない。普通の人が飲めば一発で酔うという酒だ。おかげであたりは静かになった。
色々な者の相手をすることに疲れ果てた水無月は自室へ戻るとへたばるように足を崩して座り込んだ。ため息をついて髪を解くと、その肩に名無しが手を置く。

「水無月様、」

名無しは目をそらしながら言った。

「あまり飲みすぎないで下さい・・・」

意外なご注意に水無月は目を丸くしたが、名無しの言葉はまだ続きがあった。

「あの者達と。」

水無月にはその時の名無しがやけに、単なる少年のように見えた。

「すまないな、名無し・・・」

水無月はそう言って名無しの手を取った。

「いえ、」

ふいに師走の言葉を思い出し、水無月は一人つぶやいた。

「進展はあった、な。」

水無月は振り返った。すると名無しはそれに応じて距離を取ると水無月の前でひざまずいた。

「まだ・・・見合いの相手が、残っていた。」

廊下の明かりは少なく、部屋にはわずかながら開いた障子から水無月を照らす月光が差し込んでいる。水無月は普段より柔らかい、素直で親しい、また少し照れた表情で告げた。青い、畳に垂れた長髪と月光の明かりがいっそう美しさと純粋さらしき雰囲気、趣を漂わす。

「水無月様・・・」

名無しは下げた頭を少し上げた。

「こんなお時間、酔いが回った者もおりますゆえ・・・できれば私は止めて頂きたいのですが・・・」

「案ずるな。それよりその頭巾と口を覆っているものを取れ。私と一緒の時くらい、今くらいは、頼む。」

「承知、しました。」

そう答え名無しは頭巾と口を覆い隠している布を取ってその素顔を出した。何が気まずいのか、名無しは目線を下向きに逸らしている。最も、水無月にとって久しぶりに見る名無しの素顔は少し不快な表情をしていた。まるで少年の様に。

「久しぶり・・・名無し」

そう言って水無月は名無しの顔を見つめた。その素顔は純粋で、隠し事をできないような、そんな青年の、少し少年らしさすらある顔だった。水無月が初めて出逢った時の名無しの様に。ただ、あのときの様な、自分がわからない、そんな表情はしてなかった。

「顔を上げて・・・、さぁ・・・、見合いをしようか、名無し。」

水無月は微笑んだ。

「えっ・・・水無月様・・・」

名無しははっとして、水無月の顔を見た。二人の目が同じ高さで合い、二人は見つめ合った。

「たしか、手はずはまず自己紹介からだったか・・・?」

水無月は笑いながら言うと続けた。

「私は水無月詩織、詩織だ。よろしく、名無し・・・。お前の想い、・・・聞かせてはもらえぬか?」


燕 第十二話
―完―



燕 第十三話:波紋

―予告−
かけがえのない仲間を斬られた忍と
大切な人を斬られた女
交わるは決意の刃と迷いの刃
それぞれの闘いは激化し、互いに波紋を呼び起こす
そして少女の波紋は、その仲間をも巻き込んでゆく

「すまない・・・、私がお前に一番の動揺を、与えてしまっ・・・」



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